諏訪のひと インタビュー03
フィルムコミッションの仕事はふるさとを元気にすること
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- 長野県茅野市出身/1978年生まれ
大学卒業後、都内のCM制作会社に入社。CMなどの制作現場を経験し、2006年に地元へ。映画・テレビドラマ・コマーシャルなどあらゆるジャンルのロケーション撮影を誘致・支援し、ロケをズムーズに進めるための非営利団体・諏訪圏フィルムコミッションに着任。ふるさとで行われるロケが地域に暮らす人々にとって楽しみとなり、活力と夢のあるまちづくりの一助となるように日々活動中。
数々の映画やドラマ、コマーシャルなどの撮影地として多くの映画監督やプロデューサーから支持されている諏訪エリア。国内のみならず、海外からのロケも活発に受け入れています。
そんなロケの受け入れをサポートするのがフィルムコミッションです。諏訪圏フィルムコミッションの宮坂洋介さんは、諏訪エリアで行われるロケの受入れ窓口として、数多くの作品に関わってこられました。
映画やテレビに地元が登場すると「お!」と思いますが、一見すると自分たちの日常生活にはあまり関係がないようにも思えます。しかし、フィルムコミッションの活動は実は地域と深く繋がりあると宮坂さんは話します。
今回はそんなフィルムコミッションの活動と意味について聞きました。
年間250件もの問い合わせがあるロケ地・諏訪
——あまり聞きなれない「フィルムコミッション」とはどんなお仕事なのでしょうか?
私たちが目にする映画やドラマ、ミュージックビデオなどには絶景やストーリー展開に合った情景など、スタジオの外で撮影するロケが欠かせません。フィルムコミッションとは、あらゆるロケがスムーズに進行するようサポートする非営利団体のことです。ロケ地の情報提供から撮影場所を使用するための申請、地元住民との調整、宿泊施設・警備会社・エキストラの手配など、現地でのロケを円滑に進めるための活動をしています。
2003年(平成15年)に諏訪市で発足し、その後2006年(平成18年)に諏訪エリア広域での「諏訪圏フィルムコミッション」に移行しました。発足当初はロケ数もそれほど多くはありませんでしたが、13年目を迎える今では、年間約250件ものお問い合わせをいただいています。
——それだけ人気のロケ地になったのはなぜなんでしょう?
諏訪エリアには豊かで壮大な自然があり、その近郊には古い街並みや昔からのお祭り文化も残っていますよね。およそ30km圏内にこれだけの好条件が整いながら、都内からのアクセスはおよそ2時間半。加えて温泉地としてバリエーションに富んだ宿泊施設が整っています。ロケ地としては好立地・好条件の地域なんです。
地域の長年の努力が景色を守っている
——諏訪エリアは『万引き家族』などで知られる是枝裕和監督や『バースデーカード』の吉田康弘監督などから、ロケ地として大きな支持を受けていると伺いました。
2016年10月に公開された『バースデーカード』ではロケ地として諏訪湖が舞台になっています。この作品を作った吉田監督は、まちの中にある諏訪湖やそれを取り囲む山々といった諏訪ならではの風景が「映像に奥行きを持たせ、この映画のロケーションとして最もふさわしい」と絶賛してくださいました。この時は撮影のために本番さながらの夏祭りを再現したり、花火を打ち上げたり、「まさに、諏訪」という風景がスクリーンに映し出されました。
また、数多くの撮影に起用されている霧ヶ峰は、圧巻の景色に出演者のテンションも上がるそうですよ。実はこの霧ヶ峰は全国で2%しかない牧草地のひとつで、この景観を保つために地域の方が長い間ずっと手入れをし続けているんです。地域の方もロケで撮影した映像を見て、自分たちが手入れした景色がロケ地に選ばれることをとても喜んでくださいました。「やりがいに繋がってると」言っていただけたことはとても嬉しかったですね。
場所だけでなく人の協力もあって成立するロケ
——一見すると地域との関わりが少なそうなロケも、多くの地域住民と繋がっているんですね。
ロケへの協力というのはロケーションを提供すれば終わりというわけではありません。たとえば一番わかりやすいのはエキストラ。必要な場面に応じて地元でエキストラを募集します。さらに撮影地を提供してくださる方はもちろん、撮影隊やエキストラへの炊き出しや現場での力作業など、地域のたくさんのボランティアの方々がひとつのロケを支えてくださっています。ロケの経験が豊富な撮影隊にも地元の協力の雰囲気は伝わって、とても素晴らしい現場と褒めていただくんです。
諏訪でロケをしたある映画のときは、公開日に合わせて東京の劇場まで出向いて信州そばの振る舞いをしたりもしてくださいました。作品が完成したら終わりではなく、「作品をフォローアップしたい」と思うボランティアのチームワークが素晴らしいと思っています。
——フィルムコミッションは場所だけでなく人もつなげているんですね。
そうです。以前、撮影場所として一人暮らしをされている年配女性の家屋をお借りする機会があったのですが、1か月間という長い期間にも関わらず、快く部屋を提供してくださったんです。撮影最後の日に「毎日賑やかで楽しかった。長生きして良かったわ」と笑顔で話してくれた言葉がとても印象的でした。改めてフィルムコミッションはたくさんの地域の方々の協力があってできる活動だということを実感しています。
ロケ地として選ばれることの意味って、ロケ隊の宿泊や食事といった経済効果をもたらすだけではないんです。地域の人の素朴な営みに光を当てることでもあると思うんです。自分の暮らしの風景やまち並みが映像や写真になることでたくさんの人の目に触れ、いいなと思ってもらえる。さらに自分たちの住む地域を改めて見直すことができるんです。
経済効果だけがロケ地になる意味ではない
——フィルムを通して自分たちの生活を改めて見つめる機会になるわけですね。
それは今だけでなく、未来に向かっても意味があることなんです。ロケを取り巻く環境は少しずつ変わってきています。撮影に使われる建物って、現在使われていないものも多くあり、ロケ誘致の盛り上がりとは裏腹に、維持管理の問題から取り壊しになるものも増えてきています。危機管理の問題もあり、時の流れに抗うことは難しいこともよくわかるので、残念ではありますが、仕方がないことだと受け止めています。
ただ、失われるものがあるからこそ、作品としてふるさとの風景が残っていくことの価値を改めて感じています。建物や景色は歴史を刻みながら少しずつ変化していきますが、映像や写真に残る風景は移り変わる時代の一瞬を切り取ったものであり、ふるさとの貴重な記録なんだな、と。
——ロケ地になるというのはいろんな価値があるんですね。
はい。僕の仕事は、ロケの撮影隊を受け入れて、円滑にロケが進められるように支援することです。それから、作品を通して諏訪エリアを知ってもらうこと。
でもそれだけじゃなくて、地域の人が楽しんでロケに参加してくれたり、関わることでふるさとを誇りに思ってもっと好きになったりもしてもらえる。そして、形には残すことができない地域の風景を作品という形で次の時代に伝えられることもできる。フィルムコミッションの仕事はふるさとを元気にする、そんな仕事だと思います。
これからもロケを通してたくさんの作品と地域を繋いで、夢と活力のあるまちづくりをしていきたいなと思っています。
(取材・文 鈴木 有芙子)